第七夜
著者:shauna
再びの談話を終えて、次は秋波の番。
その手に静かに蝋燭を持ち、柔らかく口を開いた。
これは・・・私の叔父から聞いた話です。
当時の叔父は高校生で・・・巷では丁度、放映された映画が原因で、心霊現象とかが流行っていた頃で・・・日本各地に心霊スポットと呼ばれる場所があったそうです。
まあ、実際にはそのほとんどは偽物だったんですけどね・・・
それで、叔父の話なんですど・・・
叔父の田舎は岩手の山奥で・・・
丁度、家の近くにやっぱりそう言う心霊スポットと言われている所があったんだそうです。
それで、高校2年生の夏休みの夜中。
やっぱり、親友だった男の子に誘われて、2人はその心霊スポットに行ってみることにしたんです。
その心霊スポットというのはとある道路でした。
その道路はあるトンネルを抜けて、真っ直ぐ続いてるんですが、どういうわけか車は全く通らないんだそうです。
何故かというと、それは、その道路は一本道なんですけど、ずっとまっすぐ行くと途中で道が無くなってしまうんです。
そこから先はまだ開発もされていない森林で、つまり、途中で計画が頓挫してしまった道路だと思うんですが、市役所に問い合わせても、何故それ以上道が無いのかは教えてくれない不思議な道なんだそうです。
ところが、もっとおかしなことに、その道の途中に歩道橋があるんだそうです。
そして、その歩道橋の手前に小さな神社があって・・・まあ、もともと、神社があった所に道と歩道橋を作ったので、丁度歩道橋の入口が神社になっていて、神社自体も道路に隣接してるらしいんですけど・・・
その神社こそが心霊スポットだって・・・雑誌にも載るぐらい有名だったそうです。
それで、真夜中に家を抜け出して叔父は友達と2人で行ってみたそうなんですが・・・
なにしろ田舎なので、電気なんて全くついて無いので、本当に真っ暗だったらしいんですが、怖いもの見たさで2人は夜中に行ってしまったんだそうです。
それで、行ってみると、これが本当に気持ちの悪い神社だったそうです。
鬱蒼たる木がまるで死者を誘うように伸びていて、そのずっと向こうに御社がある神社。
御社まで行くとなるとそれは本当に容易なことでは無くって・・・
一緒に行った友達は「うぁ〜・・・嫌な場所だな・・・寒気もするし・・・来るんじゃなかったな・・・」と漏らしていたそうです。
ところが叔父の方はそれほど・・・いえ・・・ほとんどそうは思わなかったらしくって・・
叔父が怖いと思ったのはむしろ歩道橋の方だったそうです。
それを友達に言ってみると、その友達も「確かに俺もこっちの方が怖い気がする。」と言うので、2人で行ってみることにしたそうです。
周りには人家もなくって、当然真っ暗で・・・そんな中を2人は懐中電灯の明かりだけを頼りに、コツコツと昇って行ったそうです。
「何でこんなの作ったんだろうな・・・」
そんな風にボヤキながら、2人は歩道橋の上まで昇りました。
周りを見てみると、何も無かったそうです。
それこそ、畑とか森以外には・・・遠くに人家の明かりが見えるなんてことすらなかったそうです。
昇ってみたモノのやっぱり何にもなくって・・・しばらく2人はそうしていたようなんですが、不意に叔父はなんとなく手すりをコーンと叩いたそうなんです。
すると、橋の欄干がそれに共鳴してカーンと音を出したそうです。
それを見ていた友達も手すりをコーンと叩くとカーンという共鳴音が返ってきました。
「おぉ・・・響くな・・・」
「なぁ。」
2人が顔を見合わせると
カーン・・・
叩いてもないのに反響音が聞こえたので叔父と友達はびっくりして「なんだよこれ!!!」と震えあがったそうなんですが、しばらくしてから友達の方が、「きっとそれは、科学的になんか根拠があるんだよ。叩かなくても鳴ったのにはなんか訳があるんだろ?」とそう言って、笑ったそうなんですが、やっぱり気持ちが悪いので、「もう帰ろうや。」と叔父が言って、その日は帰ってしまったそうなんです。
それで、月日は流れて・・・
叔父もその友達も大学が決まって・・・
叔父は地元の大学に進学して、その友達は愛知の大学に進学したそうなんですが・・・
そんな大学3年の夏休み。
2人とも夏季休業で実家に帰ってきて、久々に会おうという話になったそうです。
それで2人だけじゃつまらないんで、同じ高校のクラスメートで仲が良かった女の子2人も呼んで、近くの居酒屋で飲み会をすることにしたんだそうです。
飲み会は盛り上がって・・・学校を卒業した話をして、これからの就職の話をして、くだらない雑談なんかもしたりして・・・
そんな時に、不意にあの時の歩道橋の話が出たらしいんです。
「あの時、確かに音したよな?」「あぁ、したな。」
その話は意外なことにものすごく盛り上がってしまって、飲み会を午前1時に切り上げた後、帰る前にちょっと寄ってみないかって話になったらしいんです。
でも、その友達の一人・・・つまり女の子の一人が、ものすごく霊感の強い子だったらしくって、その子だけは行くのを渋っていたそうなんですが、結局その子も折れて、行くことにしたらしいんです。
それで、みんなお酒を飲んでいたので、トコトコ歩いて、結局その歩道橋に行ったそうです。
それで・・・
着くとほぼ同時に・・・
「やだ・・・帰ろう・・・」
そう言ったのは霊感の強い女の子だったそうです。
「なんだ?何か居たのか?」
叔父がそう問いかけると、
「いや、そうじゃないんだけど・・・でも、絶対にヤバいから帰ろ!!!」
そう言って震えだしたんだそうです。
でも、叔父は酒に酔っていたせいもあってあまり気にも留めずに「大丈夫だよ。」と怖がるその子が段々面白くなってきて「行こう行こう」といいながら、手を引いて連れて行ったそうなんです。
それで、結局4人で歩道橋の上まで行って・・・
「おい、ここだよな?俺が叩いて音したのって・・・」
「そうそう・・・ここだここだ。」
結局その音がした手すりの所までたどり着いたんだそうです。
そして、叔父があの時のようにコーンと叩くと、
カーン
と音が返ってきたそうです。
それで、今度は以前の時のように友達がコーンと叩くとまた、
カーン
と音が帰ってきて・・・
でもその時、
カーン
とあの時のように誰も叩いて無いのに音がして・・・
「おぉ!!!」って皆でビックリしていると、その霊感の強い女の子が・・・
「もうやめよ。誰かが来てる!!」
そう言うモノだから、
「いや、誰も来てないよ!!!」
と言い返したんだそうです。なにしろ、辺りには民家すらないので、誰かが来ればすぐに分かるんです。
だから「大丈夫だよ。誰も来てないから」と叔父は優しく行ったそうなんですが、その子は「ダメだよ!!!来てるから!!来てるから!!!」と激しく言ったそうなんです。
それで、またその子の手を引いて今度は昇った方と反対側の階段の方へ行ったらしいです。
その間もその子は「うぁあ・・・いや・・ヤダ・・・来てる・・・来てる・・・」と言い続けて、「ほら、どんどん近付いてくる。階段を上がってくる!!」とブルブル震えだしたものだから、他の3人は怖かったんですが、とにかくその恐怖を吹き飛ばしたいから無理やり笑って、「大丈夫だよ。何にもいないって・・・音なんてしてな・・・」
そう言った瞬間・・・
カツン・・・カツン・・・
カツン・・・カツン・・・カツン・・・カツン・・・カツン・・・
確かに向こう側の階段を上がってくる音がしたそうです。
でも、別に誰かが上がってきたって、おかしなことはないから、しばらくそのまま見ていたんだそうです。
カツン・・・カツン・・・カツン・・・カツン・・・
そろそろ頭が見えてもいい頃・・・
カツン・・・カツン・・・
見えない。
みんななんだろうと思って黙って見ていたら、霊感の強い女の子が冷汗をダラダラ流しながら一人震えていたそうです。
そして・・・
「ヤダーーーーー!!!!!あそこに女の子いるじゃない!!!!!!!」
その言葉に他の3人は震え上がってしまって・・・
「見えねぇよそんなもん!!!!」
と叔父は言ったそうなんですが、
「居るじゃない!!!!あそこに女の子が!!!!!」
と言ってその子が泣いて歩道橋を来た方向に向けて泣いて走ってしまったものだから、他の3人も慌てて後を追ったんだそうです。
結局、その場はそんな訳が分からないまま終わってしまいました。
そして、そこからさらに数日後・・・
友達から叔父の携帯に一本の電話があったそうです。
「おい・・・お前・・・あの歩道橋が何であるか知ってるか?」
「いや、知らないけど・・・」
「何かこの前・・・○○ちゃんが女の子の話してたろ?」
「あぁ・・・してたな・・・」
「いやさ・・・あれ、やっぱ居るのかもしれないぞ?」
「ん?・・・なんでだ?」
「いやさ・・・今、気になって図書館の新聞のスクラップでもって調べてみたら、どうやら、小学校の学芸会で、6年生の女の子が女王の役をやることになったらしいんだ。それで、その女の子はせっかくもらった役だから・・・ほら、あそこに神社あったろ?」
「あ・・・ああ・・・」
「あそこの神社の御社で一生懸命本を読んで台詞を覚えてたらしいんだ。それで、その日もその女の子は台詞の勉強をしていて、日も暮れてきたから、帰ろうと思って、道の方へと走って行ったらしいんだ。ほら、あそこの道路って途中で道が無くなってるから誰も使って無いだろ。だから、道に飛び出したらしいんだよ。でも、その日に限ってそこを通る車がいたんだ。しかも、車の方からしてもまさかこんな道に女の子がいるなんて思わないから、かなりトバしてたらしいんだ。それで、その女王の勉強していた女の子に車がぶつかって・・・女の子は即死だったらしい。だから、市役所としてもそんな事件を放置するわけにもいかず、あそこに歩道橋を作ったらしいよ。」
あんなところに通学路なんてありません。それを聞いて、叔父も納得したそうです。
「じゃあ、やっぱり幽霊だったのかな?」
「たぶん・・・な・・。」
その後、事実を確かめる為に後日2人で行ってみることにしたらしいです。
だって、半信半疑でしたし、もしかしたら、先日友達が入った話も嘘だったかもしれないじゃないですか?
それで、今度は昼間に行って、歩道橋を昇って、渡って、向こう側に降りてみたそうです。
「別になんでもないよな・・・」
叔父の言葉の通り、そこは特に何も無い草むらでした。
「でも、確かにあの時、足音は聞いたよな。」
2人はしばらく辺りを見回したそうなんですが・・・
その時・・・
フッと友達があるモノに気が付いたんです。
この前は暗くて気が付かなかったんですが、そこには立札のようなものがあって、そこに文章が書かれていたんだそうです。
読んでみると、
「この歩道橋は〜〜〜で〜〜〜で〜〜〜で、安全のために作られました。」
と書かれていました。
「へ〜・・・なるほど・・・やっぱり事件があったんだな・・・」
叔父がそう言って、すべてを納得していると・・・
友達が
「おい・・・ちょっと良く見てみろよ・・・」
そう言って「ホラ・・・」と指差した先には・・・
安全の「安」の字と「全」の字のある部分が明らかに人の手で削った部分があるんです。
それはそれぞれの字の部首でした。
「安」の字の“うかんむり”と「全」の字の“ひとがしら”が削り取られていたんです。
つまり、先程のメッセージは・・・
「この歩道橋は〜〜〜で〜〜〜で〜〜〜で、女王のために作られました・・・」
でも、この時、叔父たちはもう一つ・・・ある事に気が付いてしまいました。
そもそも、なんで女の子はなんで亡くなってしまったのでしょう。
普段は車も通らないような途中で切れている道路。
そこにたまたま飛び出した時に、たまたま速度を出していた車が来て、たまたまタイミングが合って、たまたま轢かれてしまった。
あまりにも出来過ぎてると思いませんか・・・?
思い出してみてください。
そう・・・女の子が死の直前まで居たあの神社の御社・・・。
2人は怖くて近づかなかったあの御社も・・・
噂になるぐらい有名な・・・
心霊スポットなんですよ・・・
話を終えて、秋波は優しく蝋燭を吹き消した。
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